吉辰が話しかけても、鈴姫は背中を丸めるようにして小さくなり、沈黙を続けた。吉辰も鈴姫の様子を見て、無理に聞こうとせず、そのまま話を始めた。

「義兄上は誠酒に強いな。わしも強いほうだが、義兄上には負ける。しかし、松江がいい加減にやめろと寝室に引っ張って行った。義兄上も松江には敵わないと仰せであったな。」

吉辰は機嫌良く直之のことを話した。鈴姫は吉辰の話を聞いているうちに、身体の力が抜けていった。

「しかし兄上の馬鹿と言って飛び出して行った鈴は誠愛らしかった。」

吉辰の突然の言葉に鈴姫はびくりと肩を強張らせた。
その鈴姫の様子に吉辰は声には出さずに笑みをこぼす。

「鈴はわしの前では大人しい故、あのような姿もたまには見てみたい。」

吉辰の言葉に鈴姫は顔が赤くなるのを感じた。恥ずかしさのあまり、さらに背中を丸めて吉辰から離れようとする。

自分から離れようとする鈴姫に、吉辰は少しからかい過ぎたと反省する。

「…。」

「鈴、わしも独り寝は寂しい。こっちに来い。」

吉辰の言葉に、鈴姫はゆっくりと身体の向きを反対にし、目の前の胸に身体を寄せた。