「吉辰殿、鈴の長刀は御覧になられたか。」
「長刀?いえ、ありませぬ。」

(‼)

鈴姫が二人の間に座ってから半刻ほど経った頃、直之は鈴の話を始めた。
鈴姫は直之が始めた話の内容に焦りを感じた。鈴姫が吉辰に知られたくない話である。
慌てて鈴姫は直之を止めようとしたが、構わず直之は続けた。

「鈴は幼い頃から長刀が得意でのう。わしの家来の中で鈴に勝てる者はおらぬ。」
「それは知りませんでした。さすが兄上殿の妹君、某も頼もしゅうございます。」

直之と吉辰が談笑する間で、鈴姫は恥ずかしさのあまりすぐにでも松江や侍女のところに戻りたかった。

「昔鈴がわしの家来に惚れられたことがあってのう。あまりにしつこい故長刀で勝負してあっという間に負かしてしまったのじゃ。」
「そのようなことが…。」

鈴姫はついに泣き始めてしまった。長刀で男を打ち負かす女など聞いたことがない。しかも嫁入りしてずっと隠していた。吉辰に絶対失望されたと思った。

「なんじゃ鈴、泣いておるのか?」

鈴姫は、直之は完全にお酒がまわっており、自分に恥をかかせたがっているとしか思えなかった。酔ってるとはいえ、無神経な兄に腹が立った。

「久しぶりに明日長刀の稽古でもするかのう。なぁ鈴。」

ピチャッ

鈴姫は持っていたお銚子のお酒を思い切り直之の顔にかけた。

「兄上の馬鹿‼」