夕餉が終わり、吉辰と鈴姫は二人の部屋でお茶を飲みながら一息ついていた。
鈴姫は落ち着いたところですぐに吉辰に頭を下げて謝った。吉辰は気にするなとだけ言い、いつも通り優しい笑みを鈴姫に向ける。

「先ほどは何故泣いていたのだ?」

吉辰は鈴姫の手を握りながら尋ねる。

最近分かったことであるが、吉辰が鈴姫に触れると、鈴姫は少し笑顔になる。

「あの…お味噌汁や、煮物がお口に合わないのかという…思いまして…。」

鈴姫は吉辰の顔を見ることができず、下を向いて吉辰の手を見ていた。

鈴姫の言葉により、吉辰は納得した。夕餉の時、鈴姫がなにかそわそわしたり、落ち込んでいたりする様子には気付いていた。何かと自分や父の手元を見ていたため、夕餉に関係することとは考えていたが、味に関することで様子がおかしいとは思わなかった。

「鈴の料理は美味い。また作ってくれ。」

鈴姫は顔を上げて吉辰を見る。そして、やはり安心するなと感じた。

「…はい。」

鈴姫の返事に、吉辰は頬を手で包むことで答える。鈴姫が笑みをこぼし、戸惑いがちに右手だけ吉辰の手に重ねた。