「──中村君!好きです!付き合ってください!」

「え、あ……ごめんなさい」





教室の真ん中で愛を叫ぶ後輩。

そんな後輩に愛を叫ばれている俺。



どうしてこうなったかはさて置いて、唐突だったことに吃驚はしたものの俺は迷うことなくNOの言葉を下した。


もし其の後輩が生物学上で女だったならば俺も少しは迷ったかもしれない。

しかしながら此処は男子校。

男ばかりが集まる男子校。

教師までもが全員男という、むさ苦しいあの男子校。



一つ下の其の後輩とは話したことはなかったが、バスケ部に所属していることは知っていた。

爽やかな雰囲気を醸し出しているから、てっきりノーマルだと思っていたのだが。








──入学する前は気付かなかった。

小学6年生という馬鹿な頭では気付くはずもなかった。


この世界にはそういう類の人間がいることを──





「凄かったやん、今の人!付きおうたら良かったやんけー」



未だ方言が抜けていない、関西から越してきたチヒロが馬鹿げたことを口にしてくる。


続けざまに“イケメンやったし”と云ってくるものだから、その場で立ち上がり片足を宙に向け高く振り上げる。

其の勢いの儘チヒロ目掛けて振り下ろすも惜しいところで止められてしまったが。



「はっ、ふざけんなよ。誰が男と付き合うか」


ノーマルの俺にとってはイケメンなのかブサメンなのかというのは関係無い。

相手が男という時点で問題なのだ。


其れを云ったところで、バイであるチヒロにとっては何の障害にも成り得ないこと。


俺とチヒロは根本的なとこから恋愛に向けての考え方が違っているらしい。



「えー、付き合わんのー」

「……どういう意味だ」

「さっきの、ジョークやって分かってたやろ?タカは俺と付き合うんやもんな」



チヒロの言葉に無言の儘隣で笑うカケルが瞳に映る。


俺からすればチヒロのこんな発言なんて慣れている。

だからこそ全く動揺しない。

寧ろ呆れてくる。



「違うし。タカは俺と付き合うんだよ!なー、タカー」


しかし其れに被さるように乗っかってくるのがナツキ。

これもいつものこと。



ナツキは男しか愛せないという、男子校には打って付けのホモ野郎。


そんなチヒロとナツキが一緒になって騒ぎ出せば、誰も手が付けられないくらいに馬鹿のオンパレードになってしまう。





「お前ら……好い加減にしろおおぉお!!」