皆さんは、この世に、天使がいることを、ご存知ですか?
 天使は、この世では、普通に我々と同じ人間として生活し、暮らしています。
 
 この物語は、そんな一人の「できそこないの天使」のお話です。

 ここは、天使の世界です。天使の世界と言っても、別に特別に変わった世界ではありません。普通に男性と女性がいて、社会があります。大人は天使の仕事をして、子供は学校に行っています。
 天使は、背中に羽がありますが、その羽は、移動の時に使用する為、普段はリックサックのようになっていて、利用するときだけ、背中に担ぎます。
 みなさん、ご存知でした?

 ある、学校。テスト中です。みんな真剣に、答案用紙に答えを書いています。
 天使の学校も同じで、小学校6年、中学校3年、高校3年、大学4年です。
 義務教育は、小学校と中学校ですが、テストがあり、成績が悪いと、落第があります。

 そんなテスト中、うつら、うつらと寝かかっている、ひとりの女の子がいました。

 みきぽ、15歳。中学3年生。

 今は、卒業テストの真っ最中でした。

 みきぽのうつら、うつらは、ついに、爆睡になってしまいました。
 監督の先生も、知っていましたが、テスト中だったので、起こすこともしませんでした。

 チャイムが鳴り、テストが終わりました。みきぽは爆睡のまま。1番後の天使が、答案用紙を回収して、監督の先生に渡しました。
 なぜか、みきぽの解答用紙には、名前だけは書いてありました。

 「みきぽ!みきぽ!!」

 すぐ後ろの女の子の天使が、みきぽを起こしました。

 「みきぽ、起きて!!!」
 「あっ!おはよう!!」
 「なにがおはようよーー。よくテスト中に爆睡できるわねーーー」
 「えっ?あたし、寝ていた???」

 寝ていたことさえ、わからないみきぽでした。

 次の日、当然のごとく、担任の女性の先生から、呼び出しがありました。

 「今日は、どうして呼び出されたのか、わかってますか?」
 「はい」
 「テストもギリギリの点で、なんとかクリア出来ていたのにーーー。最後の最後で0点だったのよーーー」
 「はいーーーーー」
 「監督の先生に聞くと、テスト中に寝ていたそうね」
 「はいーーーー」
 「せめて、なんとか起きていて、回答すればーーなんとかなったのにーーー」
 「はいーーーーー」
 「今のままだと、落第決定です」 
 「はいーーーーー」
 「はい、はいって、ちゃんと聞いているの!!」
 「はいーーーーー」
 先生は、みきぽを見て、少しおかしくなって、つい、笑ってしまいました。
 「みきぽを見ていると、怒る気もなくなってしまうわね」
 「そうですかーーー」
 「それでね、校長先生とも相談したんだけどーー。みきぽに追試をすることに決まりました」
 「先生、追試って???」
 「ある、課題を出します。それを無事クリアしたら、卒業できるということね」
 「どんな課題ですか?」
 「1年間、人間の世界に行って、夢に向かって頑張っている人の応援をするの。そして、その人の夢が叶った時、課題をクリアしたことになって、卒業できるっことよ」

 みきぽは、その場で考え始めました。

 「今、返事をしなくてもいいのよ。帰ってから、両親とよく相談してね。それから返事を頂戴ね」

 あたし、人間の世界に、1年も行けるのかな?

 あたし、割と天使見知りだしーーーー。

 訂正、あたし、割と人見知りだしーーー。

 あたし、勉強はあまりできないしーーーー。

 いろいろ、考え始めました。

 とにかく、相談しよう。


 その夜、いつものように、父と母とみきぽの3人での夕食。
 みきぽは、一人っ子でした。

 「お父さん、お母さん。今日は相談があるのーーー」
 「何の相談?」
 聞いたのは母。
 「実はね、卒業テストで、成績が悪くってーーー。追試を受けないと、卒業できなくなったのーーーー」
 「そうなの、でも仕方がないわね。で、どんな追試なの?」
 言ったのは母。
 「実はね、人間界に1年間行って、夢に向かって頑張っている人の応援をして、その夢を叶わせるのが、課題で。課題がクリア出来たら、卒業できるの」
 みきぽの話を聞いて、父と母は、お互いの顔を見た。
 そして、母。
 「みきぽ、1年間も人間界に住んで、生活出来る自信はあるの?」
 「わかんないーーー」
 そして、父。
 「みきぽ、とにかく行ってみなさい。」
 「うん。行くね!!」

 なんとも、あっさり決まりました。

 その後、みきぽは

 「早速、行く準備しなきゃねーーー!」

 まるで、遠足に行くみたいです。

 一方、父と母。

 「いいんですかーーみきぽをひとりで人間界に行かせてーーー」
 「みきぽも、もうすぐ16歳だ。可愛い子は、旅に行かせろって、言葉もあるだろうーーー」

 (天使の世界にも、そんな言葉があるんですね)

 次の日。

 みきぽが、学校に行くと、担任の先生と、校長先生がいました。

 「行くことに決めました。よろしくお願いします」

 深々と、一礼。

 「人間界にしっかり馴染んで、人を幸せにするお手伝いをして下さいね」

 優しい言葉を、校長先生がかけて下さいました。

 「では、説明しますね」

 担任の先生より、詳しい説明。

 「まず、ここのスマホとタブレット。メールと電話で指示しますからね」
 「はい」
 「ある、子供のいない夫婦の娘になって、いろいろな夢に向かっている人の、応援とお手伝いをしてね」
 「洋服とかどうなるんですか?」
 「ちゃんと、お世話になる夫婦の方が準備してくれるように、こちらで設定していますからね」
 「学校とかはどうなるんですか?」
 「みきぽは、高校1年生として、入学式の前日の夜に、その夫婦の家に住むように、設定しているの」
 「ちゃんと、出来てるんですね」
 「そりゃー天使ですからね」
 みきぽは、思わずうなずいてました。
 「ただし、1年後に天使の世界に帰った時、みきぽのいた時の記憶は、その夫婦をはじめ、みきぽにかかわったすべての人間の記憶からなくなってしまいますからね」
 「-----」
 「そうじゃないと、都合が悪いでしょ!!」

 そうだよね、だってみきぽは、天使だもん!!

 「詳しいことは、タブレットに書いてあるので、ちゃんと読んでね!」
 「はい!!」

 (天使の世界もITが進んでるんですね)

 その夜。
 みきぽは、タブレットで、資料を読んでいた。

 父 67歳

 母 32歳

 「へぇーーーお父さん、おじいちゃんじゃん。あたし、お父さんが51歳の時の子供。お母さんは、16歳の時の子供。すごいなーーー。で、お父さんとお母さんって、35歳も違うってーーー。そんな夫婦って、やっぱりいるんだなーー」

 みきぽは、いろいろな意味で、感心していました。
 
 「入るわよ」
 母が、みきぽの部屋に入って来た。
 「いよいよ、明日ね。本当に大丈夫?」
 「大丈夫よ。意外とあたし、強いもん!!」
 「1年後、みきぽがどうなっているか、楽しみにするわね」
 「時々は、メールしたり、電話するからね」
 「期待せずに待ってるは」
 「お父さんは、どうしてるの?」
 「もう、寝ちゃったわ」
 「いつも通りで、早寝だね」
 「今日は特別早かったわよ」
 「どうして?」
 「みきぽの顔見たくなかったからかもーー」
 「なんで?」
 「父親だからねーーー」

 みきぽも、両親も、なんとなく、センチな夜でした。


 次の日。

 いよいよ、みきぽが人間界に行く日。
 校長先生、担任の先生、みきぽの母がいました。
 「お父さんは、いないの?」
 みきぽが聞くと
 「今日は仕事だからねーーー」
 みきぽの母が答えました。
 「なにかあったら、すぐ連絡するのよ!!」
 担任の先生。
 「はい」
 みきぽ。
 「時々は、連絡してね!」
 みきぽの母。
 「はい」
 みきぽ。
 「人間界でも、たくさんの人のお世話になるんだから、感謝することを忘れないようにーーー」
 校長先生。
 「はい」
 みきぽ。

 「じゃあ、いってらっしゃい!!!」
 なぜか、校長先生、担任の先生、みきぽの母の3人の声が合わさりました。
 「行ってきまーーーす!!!!!!!」
 みきぽは、元気に手を振って、歩み出しました。


 天使の世界から、どうやって、人間の世界に行くのでしょうか?
 ご存知ですか?

 実は、簡単に行けるんです。天使の世界から、人間の世界には、定期便の乗り物があるんです。それで、たくさんの天使が、天使界と人間界を、行き来してるんです。
 その、乗り物とはーーー。

 みきぽは、その乗り物に乗りました。すると、すぐにCAさんが来ました。
 「この乗り物には、初めてですか?」
 「はい」
 「ちゃんと、シートベルトをして下さいね」
 「はい」
 「約30分位で、目的地に着きますからね」
 「はい」
 
 この乗り物は、約20人位が乗っていました。年齢、性別もいろいろでした。

 いよいよ出発。
 窓から、見送りの天使が見えます。
 校長先生、担任の先生、みきぽの母の姿も見えました。3人とも、いっぱい手を振っていました。
 それを見て、みきぽも、大きく手を振りました。

 いよいよ、動き出しました。だんだん、見送りの天使の姿が、小さくなってきました。

 「あっ!!」

 思わず、みきぽが声を出してしまいました。

 そこにはーーーーーー。

 「ドラマじゃあるまいし、お父さんが来るわけないかーーーー」

 現実とは、そういうものです。

 約30分後。

 アナウンスがありました。

 「まもなく、目的地に、到着致します。降りる準備をして下さい」

 「いよいよですね」

 シートベルト外し、みきぽは、出口に行った。
 出口には、もう10人以上が並んでいました。

 やがて、ドアが開き、次々と、出口から、天使が降りて行きました。
 そして、みきぽも、出口からーーーーーー。



 「あっーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 




 ドカン!!!!!!!!!!!!!!!!!



 みきぽは、ベットの横に落ちました。

 「まともに、腰から落ちたじゃないーーーー。痛っ!!!!!!!!!!!!」

 みきぽは、こらから1年間暮らすお宅の2階の自分の部屋のベットの横に、落ちたのでした。

 「母さん、今、2階で何か音しなかったか??」
 「お父さん、気のせいですよ」
 「最近、耳までおかしくなったのかなーーーー」
 「そんなこと言わないで下さいよ。やっと明日、みきの高校の入学式なんですからーーーー」
 「そうだったねーーー」
 「少しでも長生きして、みきの結婚式に出席して、孫の顔も見てくださいよ」
 「はい、はい!」
 母は、父の顔を見て、笑った。


 「ここが、あたしの部屋なんだーーー。なんか、可愛い!!」

 みきぽの部屋は、見るからに、女の子の部屋でした。

 「わぁーーーーーー可愛い、制服!!」

 クローゼットに、明日着る、高校の制服が掛けてありました。

 「明日から、あの制服を着て、高校に行くんだなーーー」

 と、見ていると

 「ちょっと確認しないとーーー」

 鞄から、タブレットを出して、確認中。
 しかし、旅の疲れか、少しずつ、眠くなってーーーー。

 
 バタン!!!


 みきぽは、爆睡の熟睡でした。