秀尚を見送った一正は庭の方へ歩いた。
雅之は笠を被り、黙ってついていく。
庭には杜若や椿、桜といった多種の花が植えられている。
その中をゆっくり歩く。
「花を愛でる感性があるとはな。」
「まあな。」
雅之に一正は笑う。
「最近はゆっくり見てなかった気がする。」
一正は思い出に浸るような口調で言う。
「……昔は、千代とよく散歩しとったなぁ。」
小さく呟く。
雅之は態と聞いていないような格好で無視をした。
「はは、この年になると感傷に浸りたくなるもんかいなぁ?」
一正は笑う。
「貴様が甘ったれなだけだろう。」
雅之は背を向ける。
「せやな。」
一正は空を見上げた。
曇天の空は今にも雨が降り始めそうだ。
「――千代」
愛おしい名前を呼ぶ。