確かに、雅之が目を通した資料を見ると兵士の生活の変化は陸羽の時代とは一変している。
「わしの間違いはそこや。」
一正は目を伏せる。
「国を守る兵を蔑ろにしていた。せやから、それを正すよう命じた。」
「給与を上げる御命令の件か。」
「ああ。」
秀尚は一正を見る。
「民を苦しめぬようにという考えを変えぬ限り、兵は今のままだ。」
「民が苦しむ国に未来はない。」
「それは父上の思い込みだ。」
一正に秀尚は反論する。
「兵も戦で苦しんでいる。故に、民も苦しむべきだ。」
その意見に利光は異議を唱えようとしたが、混乱を招くのでやめた。
「自分が苦しいから、他人も苦しめという考えは卑しい考えだ。」
雅之ははっきりと言う。
国王に“卑しい”など、雅之くらいしか言わないだろう。
「無礼な。」
秀尚は睨む。
「何とでも言えばいい。俺は国王に仕えているわけではない。“細川一正”に……考えが足りない、お人好しな馬鹿に仕えている。」
雅之は目を細める。
「理想ばかり語っているアホの考えも呆れたことだが、その息子も息子だ。自己中心的な考えで国を動かす気か。」
はっきりと糾弾する。
声を荒らげはしないが、怒りを感じる。
「国王という器にしてはあまりに未熟。視野と器量が狭すぎる。民も兵も苦しんでいる国が繁栄するものか。兵力が衰え、商業が衰退し、人口が減り、飢餓が相次ぐような国になるのが関の山だな。」
「口を慎め!」
「貴方の意見は聞いていない!」
国王相手故の手加減……いや、“口”加減とでもいうべきか。
そういう態度は見て取れるが、やはり敬うつもりなど無い様子だ。
(否、こいつはそういう奴やな。)
昔から変わらない。
自分の意見を突き通し、ひねくれ者の癖に頑固な態度だ。