――細川城
一正は忙しなく書状を片手に書庫に出入りしていた。
その隣には風麗が居る。
「陛下。」
「今は唯の隠居や。」
「失礼。では、御隠居様。」
風麗は訂正する。
「そのように根を詰めすぎるとお体に障ります。」
「自分のことは自分がよう解っとる。」
一正は言う。
「風麗。」
「はい。」
風麗は首を傾げる。
「あんたの師範のことやけど」
「あのことならばお忘れください。大丈夫ですから。」
少し前に来た手紙のことを言う。
「いいや。」
一正は風麗を見た。
翡翠の瞳を真っ直ぐな視線が見つめる。
その表情には焦りがある。
「お互いに生きているうちに、会わねばならん。」
そして、どこか悲しげな顔をする。
「大事なもんを見失うな。」
それは自分に言い聞かせるようでもあった。
「わしのことなら、畝がどうにか」
そこで、過ぎった影に攻撃されて言葉が途絶えた。
……ひょっとすると、息も途絶えたかも知れない。