それを知る二人は元より八倉家を危険視していた。
秘薬の研究をしていたこともあるが、当主を処されていることも気になっていた。
いつ、その恨みを晴らしに来てもおかしくはない。
それなのに、ただの一度もあれから細川に反抗したことはない。
『餌はある。』
秀尚は不敵に笑う。
『伊井薫。』
その言葉に陸長は目を見開いた。
『確か、上尾に情報を横流しにした悪女。』
『そうだ。』
秀尚は頷く。
『彼女を現八倉当主は深く憎んでいる。』
『肝心の行方は?』
『戸尾が捕らえたらしい。』
『よく、捕まったものだ。』
陸長は怪訝そうだ。
『条件を与え、従えているらしいが本当のところはわからぬ。』
秀尚はさしたる興味も無い顔をする。
『確かなことは、その女を利用することが出来るということだ。』
『まさか、その女を八倉に差し向け襲わせると?』
『その通りだ。』
『そんなに都合よく行くものか。』
その言葉に秀尚が笑う。
『何、滅んでくれなくとも疲弊できればそれでいい。』
秀尚は言う。
『戸尾には死んでもらうと、言いたいのか?』
『ふっ、何もそうは言ってない。少し、駒になってもらうだけだ。』