最後列から、ひとりの男が真っ直ぐに進んできた。
馬にも乗らず、その男は景之の目の前に来る。
「戸尾黨和……貴様の指揮か。」
景之は男を見据える
「そうだ。お前のことは前々から気に食わなかった。」
そう答える戸尾の後ろから女が現れた。
「だから協力してもらったの。」
妖艶に笑う女性を景之は見詰める。
彼女こそ、ずっと会いたいとおもっていたひと。

『景之。』
笑う彼女の顔。
焼きついて剥がれない過去の残影。

「俺から妻を奪うだけではなく、家までも奪う魂胆か。」
冷徹に言い放つ。
過去はもう振り返らないというようだった。
「随分な言い草ね。せっかく会えたのに。」
「人間など、愛してはいない。」
(愛しては、ならない。)
どんなに焦がれようと、裏切り者なのだから。
彼女に愛は無かったのだから。
「今もお慕いしてますのよ?」
「嘘で騙される俺はもう居ない。」
景之ははっきりと言う。
「暴走している、と聞いていたが……」
そう言って彼女を見るが彼女は平然としている。
「平気そうだな。」
「心配してくれたの?」
「ほざけ。」
景之は冷淡に見つめる。
「暴走しているふりでもして妖怪の集落や大村隊を襲ったのか。」
「よくわかってるじゃない。でも、安心して?半分は生かしておいたから。一気に片付けちゃったらつまらないじゃない。」
にっこりと笑う顔に悪意が感じられない。
「ふふふ……」
女は妖艶に美しく指先を景之へ向けた。