二人には景之が殺したい相手は彼自身であるように見えた。
それは、責め苦に耐えられない弱さではない。
大事なものを守りたい想いの強さの裏返しだ。
「一度しか説明する気は無い。行くぞ。」
そう言って外へ出ようとする景之の肩を良寧は掴んだ。
「貴方はそうやって、今できることを蔑ろにするおつもりですか?復讐などという過去に縛られて、前が見えていない。それで、何が残るのです?何を成せるのです!?」
「こうしている間にも時は過ぎる。手遅れになってからでは遅い。病は治るが、この件は俺が始末しなければならぬ。」
「それなら、部下が動きます。」
「無駄死にするだけだ。」
景之は静かに言う。
「八倉家に居る家臣は皆、代々仕えている者ばかりだ。部下の中には俺が幼い頃から居る者もいる。こんな馬鹿げたことで殺したくはない。人間は信用ならないし、嫌いだが……奴らは俺の家族のようなものだ。良寧、解るな?」
言い聞かせるような口調に良寧は昔の景之が戻ったように感じた。
あの、真っ直ぐと進む研究熱心な彼に再会した気がした。
「娘も大事だが、家臣も大事だ。」
「何だ。あんたも、人間らしいところあるじゃないか。」
辻丸はまじまじと景之を見る。
「そういうところが嫌いだ。」
それは、態々指摘する辻丸のことと人間らしさがある自身のことの両方だ。
静かに目を閉じる。
再び開き、感情を消す。
光を通さない瞳の先には嘗て愛したひと。