その得意げな表情のままで問う。
「それで、貴方の要件は?未だ、聞いてませんよ。」
「取るに足らないと言った筈だ。」
景之は顔を上げる。
「娘が病に罹った。ただそれだけだ。」
平然と言うが、良寧は景之の言葉に驚く。
「それは、今すぐ見舞いに行きませんと!」
「重病では無い。不要だ。」
「いいえ!」
良寧は頬を膨らませる。
「それが父親の態度ですか!」
「いや。」
景之は静かに足を踏み出した。
「俺には父の資格が無い。」
真っ直ぐと見据える先には復讐心が見えた。
「あいつを殺せば気が晴れるのか?」
辻丸は問う。
「煩い餓鬼だ。」
景之は二人に向き直った。
「娘から母を奪ったのは奴の裏切りでは無い。俺の弱さと浅はかさだ。容易く人間を信じた愚かさだ。」
(だからこそ、殺さなければならない。)
復讐したい相手は伊井ではない。
自分自身だ。