一正はもう一度深呼吸した。
「理想と現実は違う。民が笑って暮らせるようにすれば、その犠牲となるものも出てくる。それが、今の現状を招いとる。」
「いかにも。」
秀尚は頷く。
「この確執は容易く消えはしない。だから、秀尚。あんたはわしの考えには及ばない程に苦しむやろう。それでも、この志を知ってほしいんや。わしが憎まれようとも、馬鹿な国王だったと蔑まされようともな。」
「綺麗事だけで国は治められません。」
「あぁ。それを今更、知ったんや。」
一正は目を伏せる。
「……」
秀尚は立ち上がる。
「話は以上でしょうか。では、これで。」
そして立ち去った。
「理解は難しいでしょう。」
「せやな。」
利光は一正を見る。
「あんたは秀尚の傍にいて欲しい。傍に居って、この国が間違わないように見守って欲しい。」
“託すぞ”という表情で真っ直ぐに見た。
利光は頷く。
「秀尚殿が間違えた時は、某が正してみせる。」
そう言って、一礼した。
「それでは。」
一正は立ち去る利光を見る。
(出来るなら、戦わない道を。)
その願いはきっと叶わないのだろう。