そう思うのは家族を喪い愛する者に裏切られた彼を見放すことが出来ない甘さだろう。
「八倉。」
辻丸は景之を見据える。
「あんた」
「――――っ、くしゃんっ!」
遮るようにくしゃみが聞こえた。
「……は?」
拍子抜けした辻丸は瞬きをする。
よく見れば、足は履物を履いていない上に羽織さえしていない。
日も暮れて風も冷たい。
「寒いのか?」
「人間に情けをかけられる覚えはない。」
淡々と言う。
くしゃみなどしていなかったというような表情で歩き始める。
歩いた場所に点々と血が付いている。
「おい。」
「未だ何か用か。」
「ここで待て。履物を持ってくる。」
辻丸の言葉に景之は血の跡を見た。
「……」
そして、自分の足を見る。
「後で始末すれば良い。」
「あー、もう。」
歩き始めようとする景之を辻丸はひょいと抱き上げた。
身長は少ししか違わないが、抱えて歩けなくもないと思い、歩き始める。
「15とはいえ、刀を振るえるだけの筋力は鍛えてある。このくらいなんてことない。」
「即刻降ろせ。」
景之は無表情で眉を顰める。
「怪我人は黙れ。」
「人間風情が。」
「そればかりだな。半分人間のくせに。」
「そんなに力量差を思い知りたいか。」
「言ってろよ。」
そんな遣り取りをしながら侍医の元へ行った。