“来るな”と言われている。
心配してやる義理もない。
だが、辻丸の頭にどうしても解けない疑問が残った。
(もしかすると……)
最初から今の今まで抱いていた印象は誤解なのかも知れない。
冷たく無感動な人間嫌いという態度には他にも理由があるのかも知れない。
(知る必要などない。)
そう思いながら足は景之を追った。
景之は走る。
すれ違う家臣にぎょっとした目で見られたことさえ気にかける余裕はない。
(あんな子供に)
心の乱れを抑えるように呼吸をする。
履物も履かずに外へ飛び出す。
裏庭の方へ駆け込む。
“ねぇ……いっしょに、あそぼう?”
子供の声はわらう。
黒い腕が伸びて、両目を覆う。
「貴様と遊んでいる暇はない。」
膝をつくと手を振り払う。
その手は幻想のように景之の手をすり抜けた。
「八倉!」
名前を呼ばれて驚いた。