――40年前
当時、闇夜の一族について研究を重ねていた。
雅之を養子として八倉家へ迎え入れて5年になる。
彼を傭兵として送り出した頃だった。
姿は若々しくはあるものの、今のような子供の姿ではない。
『雪。』
“景之”の“ゆき”に因んで名を呼ぶ。
『雪ではなく、景之です。』
眉間に皺を寄せる。
『はっはっはっ!そう硬いこと言うでない。』
愉快そうに笑って男は景之を見る。
『それより、8つにしかならぬ息子を傭兵としてたらい回しにするとはな。会ったことは生まれてすぐの赤子の頃だけだろう?』
『非難するならば噤んで下さい。邪魔です。』
景之は研究を続ける。
『それが父に対する態度か?』
『当主殿。』
口を尖らせる男を景之は睨む。
『そのようなことだから、国王殿から窘められるのです。当主は当主らしく、このような研究所に居ないで政をしてください。』
『否。』
男は首を振る。
『此方の方が楽しい。』
『貴方という人は……』
景之の渋面には気に掛けずに彼は研究を続けた。
『八倉殿は変わってる。』
家臣は彼の背に言葉をかける。
彼こそが、景之の父であり八倉家当主である八倉義明だった。