それは、一正の身を案じているのだと思い、風麗は頷いた。
「何か、心当たりでも？」
「あり過ぎだ。」
雅之は呆れ顔で言う。
「今は、手出しすることは無いと見込んでいるが。人間とは時に想定外の裏切りをする。」
「まるで、父親のような言い方だな。」
風麗はそう評した。
景之の表情と雅之の顔が重なる。
（否、此方が幾分か人らしいか。）
そう思う風麗を雅之が一瞥する。
「……知らぬな。」
雅之は興味なさそうに答えた。
「俺にも同じ人非ずの血が流れているのだろう。」
嘲笑混じりの口調で言う。
表情は雅之が背を向けた為に見えない。
風麗は敢えて言及はしない。
何か言いかけたが、やめた。
それ以上の話は無駄だろうと解っていた。
去っていく雅之の背を見送り、中へ入る。