「羽衣奈、戻って来たよ」

志保に肩を揺すられ、伏せていた顔を上げると、砂まみれになった宙がスタンドの階段を上ってきたところだった。

両膝と左腕から、血が赤く滲み出ている。
思わず顔をしかめた私の腕を、彼は苦笑しながらぐい、と強く引いた。

「羽衣奈さん、来て」
「え、何、」
「傷口洗いに行く」


砂のにおいがする。
砂と汗が入り混じった、蒸気のにおい。

握られた腕が、熱い。
熱気が顔に纏わり付く。

腕を引かれるままに立ち上がり、階段を下りていく宙の背中を追いかけながら。


言いようのない胸の鼓動に、

……まだ冷めやまない身体の熱に、戸惑った。