伸ばされる手。 渡されるバトン。 赤が、揺れる。 彼の赤が、揺れる。 「……宙っ!」 ――走り出すその瞬間、 彼が、私を見て、笑った。 「羽衣奈、今の、」 「……ん」 思わず彼の名を叫んでしまった口を手で押さえ、すとんとスタンドに腰を落とす。 いつの間にか、立ち上がって見入っていたらしい。 「あっ宙くんひとり抜いた!」 志保の声に周囲の声援も沸く。 私はただひたすらに、トラックを疾走する宙の姿を見守り続けた。