「わたし、もう堪えられない」

国民的アイドルと、なんて結局ドラマ漫画、ファンタジーの世界だ。
こんな恋愛もうむり。
液晶画面の向こうファンの冷たい目線、刺すような言葉、震え上がるような嘲る笑い声。
わたしはあなたへの想いより、ファンへの恐れがずっとずっと大きくなっちゃった。
愛があれば関係ないなんて、嘘。
僕の一番は君なんて、何の足しにもならない。

「わたし、大学の先輩に告白されたの」

やさしい人なの。
もう人目を気にして街を歩かずに済むし、人目に怯えて想いを伝えることもしなくていい。

「わたし、普通に自由に恋愛がしたい。ごめんなさい」

僕の部屋を立ち去るまで、彼女は始終泣いてばかりだった。
彼女が流した涙はどれくらいだったのだろう。
僕は彼女の涙の数さえ知らず、差し出すハンカチを手にしないまま、恋の終わりを知った。