冬は夏より嫌いだ。
雪は綺麗だけど、邪魔だ。片足じゃあ、歩きにくいったらない。

『アン!灯だ!街が見えて来た!やっと…やっとだ!助かるんだよ!アン!』
『本当…?もうちょっとなの?』
『そうだよ!もうすぐそこだ!見えないのかい!?』
『そっか…あとちょっとだったのかぁ…』
『アン…?』
『ごめんねミカヅキ。左足…動かなくなっちゃった。もうね、眼も見えないの』
『そんな…もうちょっと…あと少しじゃないか!』
『うん。もうちょっとなら、ミカヅキはあの街へ行けるね。君はきっと冬を越せる。生きてゆけるよ』
『僕の事じゃない!アンだよ!君が助からなきゃ、どうするんだよ…』
『うん。ごめんね。でも私はもう無理かな。
……最後にお願いがあるんだ。私のバッグにほんのちょっとだけ、油が残してあるんだ。取って来てくれない?』
『それじゃあ…!』
『街にはいけないよ。そんなにたくさんあるわけじゃないから。10分も動けない。たった一曲歌うくらいだよ』
『……そっか』

『はい…』
『ありがとう。これで、ギターが弾ける。ミカヅキにね、聴いてほしいの』
『うん』
『最後の歌だから。観客はミカヅキだけ。世の人間達が泣いて羨ましがるよ』
『うん…うん…』
『題名【四季の旅】。今まで私の作ってきた曲の中で、きっと1番の歌だよ。少なくとも、私はそう想ってる』
『うん…ありがとう……』




私が歌えば誰もが泣いてくれた。
いつしか雪は雨に変わってた。
もしかしたら神様も泣いてくれたのかも知れない。
ミカヅキはずっと黙って聴いてくれた。
ミカヅキが『良い曲だよ。本当に良い歌だよアン…』そう言ってくれた。
私は微笑んで、それから自分が眠りゆく事を実感した。



あぁ。

私はやっぱり、人間になりたかったのかな。