街に入れてあげようとすると、門番の人は露骨に嫌な顔をした。
狼は人を襲う危険があるから、その血が混じっている彼は、正直ギリギリの存在だ。
彼は狼ではない。決して人を襲ったりなんてしない。
私の必死の説得になんとか門番さんは頷いてくれた。

彼は私が飼う事にした。
ペットとしてじゃなく、恩人として。友達として。
共に在る事を選択したんだ。

名前はミカヅキ。
額に三日月の傷が出来ていたから。
安直だと言われても、私も彼も結構気に入ったみたい。
私がオオカミ犬を飼うようになってから、世間はなんだか冷たくなった。
別に、私自身はなんにも変わってないっていうのに。
もうそれなりのお金は貯まっている。
このままじゃいつ追い出されるか判らないので、数日後、ついに私は街を出る決心をした。

早朝、誰の迎えもなく街を去った。
別に独りじゃないから、寂しくはないよ。
ミカヅキは笑ってくれた。私も笑った。



私は乗り物に乗るようには出来ていないらしく、徒歩で征く事を余儀なくされた。
私は疲れを知らないし、ミカヅキも犬なんだから歩くくらいじゃそんなに疲れないはず。
油と干し肉をいっぱいにつめたリュックサックと、ギターのギグバッグかついで、それらよりも軽めのスーツケースは、ミカヅキに持ってもらった。
唄いながら往こう。
歩くんじゃ残念ながらギターは弾けない。
でも声という楽器は使えるから。
ずっと楽しい旅にしていこう。