「ママは……、私を産んですぐに死んじ
ゃって……。パパが再婚したとき、嬉し
かった。


ママの顔も知らなかったから、居ないの
も同然だったし、自分に母親が出来るこ
とが嬉しかったんだ」



俺も、美海の本当のお母さんの事は知ら
ない。ただ、父さんが幼なじみだったと
は言ってたけど。



「優しかったよ、すごく。あの人はすご
く優しくしてくれた。──でも。それは
全部、パパの為だったの。パパに好かれ
たくて、やってたことだったんだ」



ゆらりと、揺れる。



美海の声が。

美海の瞳が。



「パパが死んじゃってから、あの人は豹
変したよ。文字通りの育児放棄。食事だ
け渡されて、服だけ買われて、会話なん
てほとんどない」



少し、美海の声が水分を含んでいるのに
気づいて、俺はほとんど無意識に、テー
ブルの上に置かれた美海の手のひらに、
自分の手のひらを重ねた。



驚いたように俺を見てきた美海が今にも
泣き出しそうで、鼻の奥がツン、とする
と、美海がちょっと笑う。



「なんであんたが泣きそうなのよ」