「義徳、今日の演技もすごかったぞ。すごく臨場感があった」

「義君、かっこよかったよ」

「いやあ、俺なんてまだまだだよ」

わたしが今いるのは劇場の控え室。

だからといって、わたしは劇団の人間でもなんでもない。

ただ、幼馴染みが劇団に所属しているだけ。

物心ついたときから演劇に魅せられ、中学入学と同時に劇団に入った。

彼の出演する舞台が公演されるたびに、わたし達家族は招待される。

「義徳君、ちょっといいかな?」

今日の感想や近況について話していると、小太りでどことなく愛嬌のある男の人が入ってきた。

確か、ここの団長の弓削さんだ。

「どうしたの?弓削さん」

「義徳君に話したいことがあるんだけど、ここじゃ言いにくいんだ」

一言、二言交わした後、2人は部屋を出ていった。