ご自慢の巻き髪を揺らしてそう言ったの
は、小学生からの友達の夏野明美(なつ
のあけみ)。
そんな明美を、呆れたように見下ろした
。
「なんで私はこんなに汗だくなのに、あ
んたはこれっぽっちも汗かいてないの」
「暑いのは嫌いなの」
そう言ってニッコリ微笑むその姿はなん
とも可愛らしいけど、その性格はそれに
比例するくらい悪い。
「ていうか王子様とかやめてよね」
「あんだけ騒がれてるくせに。お姫様っ
て柄でもないでしょ」
……それは、そうだけど。
むう、と納得いかずにむくれていたら、
あ、と明美が声を発した。
「……美穂、北見(きたみ)くんよ」
くい、と私の体操服の裾を引っ張ってそ
ういった明美に、ドクッと胸が大げさに
跳ねる。
明美が指差したのは、100メートル走
のスタート地点。