「よぉ。」


些か疲れた顔で片手を上げていたのは竹内蛍だった。
珍しいことに彼の垂れ目の下にわずかに隈ができていた。

そしてそんな竹内蛍の隣に立っていたのは。


「悪いんだけど、五分で荷物まとめてきてよ。」

ふてぶてしく藍にそう言い放った男。
そう、昨日藍の家の風呂場の壁に大穴をあけた男。

初対面で馬鹿と罵倒されたのは初めてだったので藍の記憶にもよく残っていた。


「荷物?」

「そう。もうこの家には戻れないだろうからさっさと大事なものまとめてきてよ。」

「はぁ……。」


全く状況を理解できないでいる藍はノロノロと動き出す。

男のあまりの上から目線に苛立つ余裕もない。
竹内蛍は竹内蛍で眉間にしわを寄せ苦い顔をしている。
珍しい。
いつもヘラヘラしているイメージだったのだが。