ようやく舞い上がった埃が落ち、藍は顔を上げる。
いつの間にか妖怪たちは消えていた。
いつも弓月は逃げるとき消えていたが、何か妖怪の能力なのだろう。
「有田藍さん?」
妖怪たちが消えたところをボンヤリと見つめていたら、そう声をかけられた。
顔を上げれば、気の強そうな同い年くらいの男の子が目の前にいた。
白い着物。
黒の袴。
滲み出る秀才臭。
「もう一度聞くけど、君は有田藍さん?」
ツンと冷たい男の視線に藍はなんとかコクリと頷く。
この上から目線の男の子は妖怪たちを追い払ってくれた。
藍の味方なのだろうか。
「そう。僕は鬼道学園理事長代理で来たんだ。」
鬼道学園。
竹内蛍はネットで検索しても該当サイトは0だと言っていたのに。
藍の表情の変化に気付いたのか、男の子は眉をつりあげる。
「なに?」
「……実在したんだ。」
男の子の目の冷たさに負けて藍がそう零す。
ハッ、と馬鹿にしたように男の子は笑った。
「検索でもした?」
「う、うん。」
藍はしていないが竹内蛍がしたのを聞いたから、一応頷く。
「ネットでの情報全てが正しいと思い込む姿って馬鹿の極みだよね。」
男の子はそう言うと背中を向け藍から離れていく。
残された藍は尻もちをついたまま呆然としていた。
「……は?」
これが、鬼道学園理事長の息子、かつ首席の秀才、伊勢千秋との出会いだった。