「有明、ありがとね」


改めて藍がそう言うと、有明は黙ったまま頷いた。

あの日、洪水が過ぎ去った後。
ぐちゃぐちゃに潰れた木々が広がる山のふもとで、藍は倒れていたらしい。
もちろん側には有明がいた。

藍の脈があることを確かめてから、有明は藍をかつぎ歩いたらしい。
そうして、洪水により見る影もなく壊れた神社の付近へ行き、そこでようやく二人は鬼道学園に救助された。

有明と千秋がどんな話をしたのかは知らない。

けれど、藍を助けてくれた。
そして藍の病室に当たり前のように有明がいる。
鬼道学園からの扱いは悪くないのだろう。


「お前さ」

「ん?」

声をかけられ有明の方へ向けば、思いっきり不機嫌な顔があった。


「全快したら一発殴らせろ」

「え、なんでやだよ」

「ふざけんな!全部俺に任せて一人でくたばりやがって!俺一人で死ぬかと思ったんだぞ!」

「あー……」