ゆっくりと、有明は立ち上がる。
そしてくるりと振り返り、九木に向き合う。
「……地球の未来を考えたら、あなたを一緒に連れて行くべきなんだろうけど、」
そろりと、横たわった藍のそばに寄る。
この距離ならいける。
「俺、弓月に頼まれてるんだ。藍に渡さなきゃいけないものがある」
九木がじっと凍てつくような眼差しを向ける。
青白く光る千里眼では、数万光年先から地球へ向かってとんでくる星々が見えているのだろうか。
「後悔するぞ」
「あぁ」
「人間を生かせば、山も森も動物も、妖怪も滅びる」
「かもな」
「地球も滅びる。貴様の選択次第だぞ」
「俺は選んだんじゃない。弓月に頼まれたから、仕方なく、藍と一緒に戻るんだ」
だから、と有明は震える唇で呟く。
「自然が滅びようが地球が終わろうが、俺のせいじゃない。恨むんなら、俺に頼みごとをした弓月を恨めよ」
言い切った、その時。
有明の足元から大量の水が溢れ出した。
足を取られて盛大に転ぶ。
先へ。
6550万年、先へ。
あの時代へ。
大きな渦が、有明と藍を飲み込んでいった。
空には、いくつもの星が地球へ向かって尾を引いて進んでいた。