亀は薄暗い瞳をぎょろりと動かす。
ゆっくりと口を開け、ガランッと何か落とした。
そしてそのまま、すーっと水に溶けるように消えた。
サァァッと桜たちの足元の水も引いていく。
数秒後には、普通の川に戻っていた。
乙姫はいつの間にか結界を破り、行ってしまったようだ。
はーっと、どちらからともなくため息をついた。
「困ったことになったな」
千秋は貝殻を睨みながらそう言った。
「有明って妖怪がどいつだか分からない。おまけに、九木の元にいてもう死んでるかもしれないとなると」
「それより、乙姫が置いていったあの箱は?」
桜は地面に無雑作に置かれたそれに近づく。
当たり前だがビショビショだ。
黒い箱で、いかにも高価そうなものだと分かる。
金色で何かが装飾されている。
持ち上げてよく見てみれば。
「天狗」
木に腰かけ、ゆったりとしている天狗の姿が描かれていた。