ゆっくりと、歩みを進める。
ゴロンと、頭が転がっていた。

高い鼻。
黒い翼。

天狗だ、ここら一帯に散乱している死体は。

千秋は、知っていたのだ。
天狗が九木に殺されていたことを。


「行こう」


藍はダンの手を引っ張る。
できるだけ、転がっている死体は見ないように。
素早く、ここを立ち去りたかった。


「早く」


ダンのペタペタという駆け足の音だけが聞こえた。
ヒューヒューと風が吹く。

仲が良いなんて言えない。
大好きとまではいかない。
家族愛なんてものもなかった。

親じゃない。
親代わりとしての役目もきっちり果たせてるか怪しかった。

そんなひとだった。

それでも、今そのひとの亡骸を見て、冷静でいられる自信がなかった。
だから、見ないようにした。
ひたすら前だけ見て歩み続ける。

カァカァと、どこかからカラスの鳴き声が聞こえた。