「何もないわけ?」
「ん、いや。ちゃんと小屋はあるけど」
じゃあさっさとしてよ、と千秋が目で言ってくる。
こっちはそんな冷静に考えられる状況じゃないんだよ、と藍は思う。
本当に、何でここにダンが?
ジリ、と小屋に近付く。
すると、すっとダンがこちらを振り返った。
穏やかな目が藍を見つめてくる。
開けろ、ということか。
やるしかないのか。
藍は気持ちを切り替え、足を踏み出す。
「開けるね」
「早くしてよ」
「うるさいな」
千秋の嫌味を背に受けながら、藍は進む。
ペキ、ペキ、と何かが割れる音。
手を伸ばす。
そして、ボロボロの木に触れる。
ギギッ、と何かが開く。
ほろほろと、小屋が崩れる。
そこから。
じめっとした、何かが、漏れ出てくる。
その時。
あれ、と藍は思った。
さっきまで壱与の結界があったのに、何でダンが入ってきてるのだろう?
牛木に近い妖怪であっても、牛木ではないはずだ。
何で、竹内家に。
え、あれ?と藍が思った瞬間。
ぬらりと。
目の前に、何かが出てきた。
薄気味悪い、何かが。