「こ、こんばんは。」
理事長はじっと黙って藍を見つめている。
見定めているようなその視線はやや冷たい。
有明がさっと藍の後ろに隠れた。
ダンも藍の手を握る力を強める。
理事長は何も言わない。
何なのだろう。
謎の沈黙を藍が不思議に思うと同時に、理事長が口を開いた。
「どうしてあなたが東北の妖怪と共にいるのですか?」
あ、やばい。
瞬時に藍は自分の状況を察しドッと冷や汗を流した。
何がやばいって、ダンだ。
鬼道学園の生徒でありながら有明と一緒にいることさえ良い顔をされなかったのだ。
有明以上に妖力のあるダン。
しかもつい最近まで鬼道学園を騒がせていた妖怪と一緒にいるなんてそれこそ許されないだろう。
理事長の目は完全に座っている。
怖い。
「我々としては即刻その妖怪を殺すべきだということで意見が一致しております。なので万が一、あなたがその妖怪の味方をするというのであれば、我々はあなたを鬼道学園から追放し、あなたを敵と見なします。」
淡々と、理事長はそう言った。
怒りも何も感じさせない平坦な声が妙に怖い。
藍はゴクリと唾を飲む。
後方の車から、石上桜が降りてくるのが見えた。
そうか、彼の七支刀を使えば妖怪を殺せるんだ。
「あなたは、どちら側なんですか?」
妖怪か、人間か。
普通に考えれば、ここはダンを見捨てるべきだろうか。
だが、右手を握ってくる小さな手を振りほどくことはとても非道なことのように思われた。
ダンはまだ年端もいかない子供だ。
自分がどれほどの力を持つ妖怪なのかも分かってないはず。
何も分かってないまま、東北の正体不明の妖怪と恐れられて。
鬼道学園の関係者の目が厳しくなる。
後方で伊勢千秋が石上桜に何か耳打ちしているのが見えた。
あぁ、もしかしたら問答無用でダンは斬り殺されてしまうのかもしれない。