「お前の五人前の先祖の、お菊という女は江戸の終わりを生きた。17歳で九木に殺された。」


夏の日差しが弓月たちを照らす。
見捨てられた荒野。


「彼女は、今はまだ夜明け前で、これから明るい世が待っていると信じていた。信じていたからこそ、子供を守った。」


空襲で焼けた土地を見る。
草も木も人も建物も全てが無くなった。


「本当にこれは、夜が明けた後の世界なのだろうか。」


男は何も言わずただ弓月に笑いかけた。
彼の涙はいつの間にか止まっていた。

そうして男は弓月の腕の中の赤子に笑いかける。


「九木の元へ行くよ。」

「わしはお主が命を捨ててまで守る価値が人間にはないと思うぞ。」

「信じていたいんだ。」


夏の日差しが男を照らす。
骨と皮ばかりの身体で彼はニカリと笑った。


「人間も捨てたもんじゃないんだよ、弓月。」


それから14時間後。
朝焼けと共に男は旅立った。