1945年。


第二次世界大戦。
広島と長崎に原爆が落とされ日本は負けた。

戦争の終わり、弓月はアテルイの56人目の末裔と共に岡山にいた。
56人目はまだ一歳の赤子だ。

岡山は、東京や神戸ほどではないが空襲があった。
かつて賑やかだった通りは焼けてしまった。
何も残っていない。

焼けた荒野を一人の男が歩いてくるのが見えた。

ボロボロの戦闘服を着ている。


「弓月。」


しゃがれた声でそう呼ばれた。

アテルイ55人目の末裔。
弓月が抱いている赤子の父親が、徴兵から帰ってきたのだ。


「ただいま帰りました。」


彼はガリガリに痩せていた。
目はギョロギョロと浮き出て、気持ち悪いくらいだった。

彼にはいくつものまじないをかけ、護衛の妖怪も付けておいたので死ぬことはないと分かっていた。
だが、やはり生きている姿を見るとほっとした。