そうして、下を向いた人首丸へ突き放すように宣言する。


「わしはお主とお主の子供は守る。だがそれ以外の人間は助けん。」

「……分かってる。」


くっと眉を下げ、ふっと人首丸は笑った。
さらさらした笑い方だった。

弓月は唇を噛みしめる。


「明日、九木の元へ発つ。」


じっと。
弓月は強い眼差しで人首丸を見つめる。


「……いいのか、お主は、それで。」

「いい。息子が生きる場所を潰されては敵わん。」


ふいと人首丸と目が合った。
息子をよろしく、と小さな声で言われた。
そうして、ありがとう、と言い、人首丸は踵を返す。

さくり、さくりと。
雪を踏む足音がやけに大きく聞こえた。
弓月はじっとその後ろ姿を見つめる。

もしも。
もしも、人首丸が九木から逃げると選択していたら、わしは全力で彼と彼の子供を守りどこまでも一緒に逃げてやったのだろうな。

そう考えると同時に、弓月は気付いた。

自分は、彼と生きるのも悪くないと思っていたのだと。

しんしんと、雪が降り始めた。