だが、さっき暗い洞窟で見た天狗。
かなりの妖力を保持していた。
あの天狗は藍ちゃんを守っていた。
自分たちの身を守るために、アテルイの子孫を生かさなければならなかった。



「天音さん。」

「はい。」

突然の佳那子の呼びかけにも竹内天音は驚いた様子を見せなかった。


「お香か何か、家で焚いてますか?」


竹内天音はひょいと袖を顔に近づけた。


「あぁ、匂いがしましたか。父と母の仏壇に線香をたげてます。」

「そうですか。」


天狗は藍を守っていた。
他の妖怪や厄から。
藍が死なないように。

妖怪に守られていた藍のそばでは蒸し暑い夏の匂いは感じられなかった。

牛木である壱与の結界に守られている竹内天音。
彼女からも、何の匂いも感じられない。

妖怪に守られていることと匂いのこと。

何か関係があるのかもしれない。
佳那子は竹内天音をじっと見つめたまま考えていた。