「病院の匂いも好きなの。」
「消毒液の?」
「そう。」
「へぇ。」
藍の目がふっと左に寄る。
それだけの仕草だったのだが、佳那子はひどく気にかかった。
「藍ちゃん。」
「ん?」
「どうしたの?」
黒い藍の瞳をのぞきこむ。
ヘラリと藍は困ったように笑った。
「私病院に行ったことがなくてさ。」
「……え!?」
そんなことってあるの!?と佳那子は目を丸くする。
今の生活に病院はかかせないだろうに。
予防接種に健康診断。
そもそも、病気にかかったとき彼女はどうやって治していたのだろう。
まさか気合とか?
「病気したことないんだよね、私。」
身体だけは丈夫なんだー、と笑う藍に佳那子はただただ驚くばかりだった。
流石にそれはない、と。
藍ちゃんだって昔病気したことがあるけど小さい頃のことだったから忘れてるだけだ、と。
そう考えて納得していた。