「私さ、マニキュアの匂い好きなんだよね。」

「あの身体に悪そうなやつ?」

「そうそう。あと、革靴磨く時のクリームの匂いとか。」

「私もその匂い好き。」


ポンポンと藍と会話しながらいいなぁ、とまた佳那子は思った。

マニキュアだとか、革靴だとか、イヤリングとかネックレスとか。

ティーン向けの雑誌に載っているものを佳那子が身につけているのを見ると、周りの人は良い顔をしない。
継承者なんだからチャラチャラした格好は控えなさい、と母によく言われる。

その都度佳那子はブスくれていた。
別に、ちょっとくらい普通の格好してもいいじゃん。
着物は綺麗だけど、たまにはダルッとした服着て気を緩めてもいいじゃん、と。

鬼道学園ではマニキュアや革靴の話をしても分かってくれる人がいなかったので、話が通じる藍がいて嬉しかった。


「あー、でも私新品の靴のプラスチックみたいな匂いはダメ。」

「スポーツ用品の店行くとムワッと匂ってくるやつ?」

「そう、それ。」


まさか匂いのことでここまで話が広がるとは思わなかった。
佳那子もつい饒舌になる。

違和感を覚えたのはその後だった。