「一時間くらい前からだ。」


有明が口をモゴモゴさせてそう言う。

ゆっくりと。
土に水がじわっと染みてゆくように。
枝が動いていた。

ポツポツと。
新芽が出てくる。

何だ、これ。

全く状況が分からない藍は顔を上げる。

一体何が起きてるの?
目で有明にそう問いかける。
すい、と有明の視線が下がる。


「九木が怒ってる。」


九木。

噂でしか聞いていなかった妖怪。
牛木の次に強いなんて聞いていても、全くその強さは分かっていなかった。

パキ、ポキと。
ゆっくり成長する枝。

パラパラと、生い茂ってゆく葉。

今、ようやく分かった。
九木の影響力を。
その力の大きさを。

ようやく、実感できた。
二歩、藍は後ずさる。

すでに検索機は木々に覆われその姿が見えなくなっている。
ビーッと、悲鳴のような警報音。

パキポキと。
それでも木々の成長は止まらなかった。