パタパタと足音が近付いてきて、有明とダンがスッと近くの棚の後ろに隠れる。
同時に蛍が藍の隣にやってきた。
「藍は坂口安吾が好きなのか?」
「そういうわけでもないよ。」
じっと蛍の青みがかった瞳が画面を見つめる。
そこには坂口安吾の書籍がズラリと並べられている。
「何て話を読みたいんだ?」
「ピエロ伝導者。」
「あ、それ読んだことある。」
「え。」
藍はバッと蛍を振り返る。
宇宙関連の雑誌を片手に持つ蛍はキョトンとしている。
宇宙以外の本なんて教科書以外読まなさそうな蛍が坂口安吾を読んでいるなんて。
「電子辞書にのってるよ。日本文学1000作品ってとこ。ネットで検索すれば普通に読めるだろうし。」
なんてことないように蛍に言われた。
え、と藍はしばらく目をパチパチさせた後、ボソリと呟く。
「……情報格差。」
「あ、そっか藍ってパソコンと電子辞書持ってないのか。」
一応テレビと電話はあったが知りたい情報をピンポイントで探せるものではない。
わざわざ本屋に来なくても誰かから電子辞書を借りればよかったのか。
広辞苑一筋で生きてきた藍には思いつかない手だ。
ガックリと力がぬける。