宇宙船の中でプカプカと浮かんでいる蛍を想像してみた。
無重力。
闇と星に囲まれた空間。

蛍にとってはパラダイスじゃないか。


「全貌が掴めない、だけど常にそこにあって、夢を与えてくれる。そんな存在のままでいてほしいんだ。」

「……はぁ。」


全く分かっていない様子の藍にクスクスと蛍は笑い声を漏らす。


「例えばだぜ、俺が今から猛勉強したとして、何年後かに宇宙飛行士になったとする。そこに行くまでにはたくさんの苦労が必要だ。もちろん時間も。」


ザザ、と潮の音がする。


「そうしてようやく宇宙の暗闇から地球を見つめたとき、俺は今持っているような宇宙への愛を持てない気がするんだよな。」

「わけわかんない。」

「つまり、あれだよ。憧れは憧れのままでいたいってこと。今までは手の届かない未知のものとして見上げていた。たのに宇宙飛行士として宇宙へ行けたその瞬間、冷める気がするんだよ。」

「何が?」

「愛が。」

「ごめん気持ち悪い。」

「待て待て。よく考えてみろって。今までどんなにジャンプしても届かなかった宇宙に行ったら、なんでだよって思うだろ?」

「別に。」

「なんで人間なんかが手を出せるような安い存在になったんだって思わないか?」

「……うーん。」


藍は口を曲げる。

好きだから、知りたいと思うのか。
好きだから、そのまま夢を見させてほしいと思うのか。

考え方も人それぞれだなぁと思う。

そこには蛍なりの譲れないものもあるのだろう。