「弓月っていう天狗、何か喋ってたっけ?」

「俺たち妖怪の声は聞こえないからなぁ。」

「誰か読唇術使える人とかいないわけ?」

「千秋が一番出来そうだけど。」

「出来ないね。」


しん、と不自然な沈黙が出来る。

千秋が右手に持っている物。
『藍へ』と書かれた紙の束。

天狗が、千秋たちの手にそれを渡した。
渡しただけで、すぐに煙のように消えてしまったが。


「どうします?」


紫月のその言葉に、四人は静かに目を合わせる。


「見るか。」

「見ちゃおうか。」

「そうですね。」


なんとなく、こっそりいたずらをしているみたいでドキドキした。
他人の手紙を勝手に読むなんて初めてだ。
少しの罪悪感と、期待と。


「じゃあ、僕が有田藍の代理ってことで開けるね。」


千秋はそう言うと、ゆっくり紙の束に手を伸ばした。