牛木といえば殺されない限り永遠に生き続けられる。
優しく聡明な壱与が永遠に生きていてくれれば、この国も安泰だろうと思った。

そんな少女を見て、月の光に照らされた壱与はクスリと、困ったように笑った。



「竹。汝に頼む。」



ポツリと吐き出された壱与の言葉。
少女はわけが分からず目をしばたかせる。



「封印のまじないをかけた。まじないが続く間は、災いをもたらす妖怪は近づけない。だが、人間が封印を解くかもしれぬ。汝がそれを防いでくれ。」

「い、壱与さま?」

「予の側にいれば結界により厄はやって来ぬ。汝の一族は、これから先永遠に滅びることはなくなるぞ。」


びゅうっと、一陣の風が吹く。

雲が出てきた。
月の光が陰り、壱与の顔が見えづらくなる。

少女の手から、掴んでいたぬくもりが水のように流れ、消えていく。


「お待ちくださいっ。」


少女が叫んでも辺りは暗く、壱与の姿は見えない。


「汝の家の周囲の森まで、結界は張られる。後を頼む。」


輪郭の淡い壱与の声は消えた。

風が静まる。
音もなく雲は流れ、再び白い月が辺りを照らす。

壱与の姿はすでになかった。

静寂。

控えめに、虫の声が響いてくる。
竹という一人の少女は唇を噛みしめる。



270年。
新しい牛木、壱与は封印された。