「どう思うよ?」

「どうも何も、あんな下等な妖怪の言うことだ。子供の噂話くらいに考えていいんじゃない。」


藍が去った後の書庫。
桜と伊勢千秋はそれぞれに言葉を交わす。

さっきまで藍が妖怪から聞いた話に身を乗り出してたくせに、と桜は素直じゃないというか、めんどくさい性格の千秋を見やる。

ずらりと並ぶ巻き物の中で、三人だけが呼吸をしている。

静まり返った部屋の中で声はよく反響する。


「有田藍さんが夕食の時言ってた、壱与が竹内家にいるということは、信用していいと思います。」


鈴のような紫月の声も反響する。

桜と千秋は二人同時に紫月を見る。

ふわっと黒いおかっぱが揺れ、紫月は微かに微笑む。



「竹内家1700年の繁栄は、壱与の賜物です。」


ピン、とした古い紙の匂いが三人を包む。