だだっぴろい屋敷を竹内蛍は一人で歩く。

竹内家の本家。
蛍にとっては実家なのだが、十年間ものブランクがあるのでなかなか屋敷の構造が思い出せない。

蛍の部屋は十年前と何一つ変わらなかった。
そもそも岩手の分家に預けられるとき荷物は全て持って行ったのだから変わらなくて当たり前だ。


『妖怪がいるんだ、うちには。』


十年前の父の言葉を思い出した。

あの言葉を信じなかったから岩手の分家に預けられたのだ。

別に竹内家を継ぎたいなどとは思ったことがなかったが、あの岩手行きは些か急だった。
父が無理矢理そのような流れに持っていったのかもしれない。



『分家の方は空気が澄んでいますから星が綺麗に見えますよ。』


慰める女中の言葉に六歳の蛍は胸を躍らせた。

星が綺麗に見える。
それだけを楽しみに、蛍は岩手へ行った。