十年後。
自分がその頃までに生きていればよいが。
もしも、最悪の場合は蛍が当主として災厄に臨むことになるのだろうか。
無邪気な目でヤツデの葉を見つめる蛍。
父親の不安そうな視線には欠片も気づいていない。
「あ、流星群!」
はたと気付いたように蛍はそう叫ぶと、止める間もなくドタドタと走り去ってしまった。
父親は一人残された。
静寂。
手にあるヤツデの葉が力なくダラリと垂れる。
その時、ふいに寒気がした。
見られてる。
何かに。
何だ。
手から力が抜ける。
パサリとヤツデの葉が落ちた。
それに伴って視線が動くと、目の前のふすまが2cmほど開いていた。
その暗闇の中で、一つの目がこちらをじっと見ていた。
青みがかった無感情な目。
天音が、深淵から、静かにこちらを見つめていた。