「お父さんは、蛍を当主にするおつもりですか。」
女中の話を聞く数日前に、天音にそう問われたときのことを父親は思い出した。
「さぁな。先のことは、まだ分からんよ。」
あの時はそう言ってはぐらかした。
しかし、無表情に見つめてくる天音の青みがかった目はやけに気味悪く感じた。
学才もあり、友達とも仲良くしている天音。
天才で、しかしそれを驕らない、いい子だ。
そう思っていた。
けれどもあの日、無表情に父親を見つめてくる目に恐怖をおぼえたのも事実だ。
何を考えているのか分からないのが、一番怖い。
なんとなく、あの日から父親も天音もどちらからともなく避け続けたままだ。