蛍は父親に向き直り、ぶすっと唇を尖らせた。

父親は父親で、女中たちから蛍は星好きだと聞いてはいたがまさか父親を後回しにするほど好きとは聞いていなかった。
それに少しショックを受けていたことなど、六歳の蛍は気づかなかったが。


「姉ちゃんがいいよ、当主は。」

ボソリと、蛍は呟いた。
青みがかった瞳に影がさす。
父親は蛍がそう言う理由も分かっていた。

だが、それでも分からないフリをした。


「天音は女の子だからなぁ。男の子は女の子を守るものだぞ。」

「……男女平等。」


天音は勉強がよくできた。
よく、なんてものじゃない。

一度読めばその文章はすぐに覚えてしまい、小学校三年生ですでに中学校の勉強を終えてしまっていた。
秀才児。

当然のようや飛び級の話もきたが、それを両親が判断する前に天音が断った。


「社会は人との関わりで出来ているのですから、同級生との関わりを通して人付き合いを学んでいきたいのです。」


凛とした声でそう告げられ、両親は何とも言えない気持ちだった。
見た目は人形のように儚く愛らしい少女。
その内側にはしっかりとした考えがある。