彼は、おでこを突いた手をポケットにしまい、屋上の出口へと歩いていく。
優雅な身のこなしに、私は心を奪われたままで、出ていく彼の背をただ見送った。
すると、思い出したようにその彼が振り返る。
「ここ、俺の好きな場所だから。つまんない事で汚さないでね」
白い歯を覗かせ、口元がそう音を出した。
「……汚さ……ないでね――――……」
彼の音を、私も出してみた。
ここで私が飛んだら、この場所は汚れるの?
彼がいなくなったあと、青空を見上げても答えはわからなかった。
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